(どうしてこんなあたしにそんな優しい目が出来るの? あたしを見てるようで本当はど近眼じゃないのかな? 普通の感性の持ち主ならどう考えてもあたしを見つめることなど出来ない思うのに……)
ベッドに並んで添い寝をしている優雅さんはあたしを抱き寄せ頭を撫ぜてくれている。
「ユイさんが眠るまで僕は寝ないよ。だから眠って」
「……、え、ええ」
今夜初めて女性向け風俗店の添い寝やというジャンルのお店に電話をした。本当に添い寝をするだけですか。電話をしたとき訊いてみたら、もちろんです、とゆう見事な即答ぶりを発揮してくれたので今、横に優雅さんがいる。
「あのぅ、」
「なに?」
照明は豆電球にしてあるけれどすっかり目が慣れてしまい、優雅さんの顔が98%くらいはっきりと見える。顔のいい男性はよしてください。と、電話口にいた人にくどく伝えてあったにもかかわらず、この顔面偏差値の高さったらない。参ったなぁ。あたしは意を決して幾つかの質問を施した。
「ふたつほどの質問があります」
「はい」
優雅さんは真面目に耳を傾ける。あたしはそのままひとつめの質問を口にしだした。
「初対面で出会ってあたしのようにブスでも怯まないのですか? 帰りたいて思わないの?」
目を丸めながら優雅さんは、あはは、と、失笑をして
「嫌ならね、辞めてますよ」あはは。ユイさんはそれにブスではないですって。と、付け足す。だって、どう見てもブスですよ。お世辞はなしです。あたしは頬を膨らます。優雅さんはあたしのおでこにかかる髪の毛をどかしてキスをした。
「キャッ」
急なアクシデントに驚き腰が抜けそうになる。
「あ、かわいい、そのリアクション」
優雅さんはいたずらっ子のように歯を見せて笑った。かわいい。うーん。かわいいなどという単語を生まれてこのかた一度も耳にしたことがない。唯一、父親だけが三十路になるあたしを「かわいい」と褒める。親の贔屓目だよ、それって。父親の前でも素直になれないあたし。
「手繋いでもいい?」
「え、ええ」
お布団の中でお互い指を絡ませ手をつないだ。優雅さんの手はギョッとするほどに冷たかった。
「あたしね、恋人つなぎするのって初めてなんだ。いいね。なんだか」
「うん、僕もね、女性の手を握るのが好きなんだよ。知ってる? 手をつなぐこともね、愛撫と同様なんだって」
へー。そうかもしれないと思った。手をつなぐことって普段の生活で同性でも異性でも滅多にしないことだ。それを今、異性としている。優雅さんの手の温度があたしの体温と同化してくるのがわかる。
なにもセックスにこだわらなくても手をつないだり、抱き合ったりするだけで女とゆうものは英気を養いことが出来てしまう。奥深いけれど存外単純な生き物なのかもしれない。
ちっとも眠れそうにないあたしは優雅さんの手をギュッと握りしめた。
先に眠ってくれますか?
これがね、ふたつめの質問なんだ。あたしはそう話しかけた。隣からはスースーと規則正しい寝息の音楽が耳の穴に届いてくる。
優雅さんはあたしの質問にこたえる前にこたえを出してしまった。
その横顔をじっと見つめる。綺麗な肌に整った骨格。稜線を描いている鼻梁。
よしっ。
【女性用風俗小説11】~やさしくしないで~
