kaikan小説 12|おいしそうね

「いつもながら見ていてすがすがしいわ。本当に……」

江見くんは目の前にあるサーロイン肉を器用にナイフとフォークを使い分けみるみると口の中に放り込んでいく。250グラムの厚切肉の横に申し訳ない程度に添えてある人参やジャガイモまでもペロッと食べてしまった。あたしは赤ワインを舐めながらその豪快な食べっぷりを見てすでに満足をしている。

「江見くん、ワインのおかわりは?」

「あ、じゃあ、いただきます」

舌で唇を舐めながらワイングラスを差し出す。舌で唇を舐める仕草にグッときてしまう。あたしはついジッと見入ってしまった。

「えっ? あ、僕の顔汚いですか?」

いけない。あまりにも見入ってしまっていたので江見くんは誤解をしてしまったようだ。

あたしは首を横にふって

「ちがう、ちがうのよ。つい、ね。江見くんの豪快さで、あたし、イキそうになったのよ」

クスクス。あたしは笑いながら肩をすくめる。

「イッてください。どんと!」

「まあ! なんてたくましい。江見くん」

まあね。僕食べるの好きですもん。江見くんは小鼻をこすりながらまた笑った。

120分のホストコース。その中でディナー付きコースがあって毎回同じコースで同じ江見くんを指名している。男性と食事をすることが苦手なあたしに江見くんは楽しさを教えてくれたし、食べている男性の姿がとてもエロティックに見えたのだ。

食べ方が綺麗な男性程、性に対してあまりがっついていなく、食べ方が豪快かつ健啖な人ほど逞しいセックスをするというのがあたしなりの見解だ。それはあながち間違ってはいない。

こうやって出張ホストを何人も呼んでみて一緒に食事をしベッドでも楽しませてくれる男性はたくさん食べてたくさん飲んでたくさん笑ってあたしにもたくさん食べろとすすめる。食事はあたしもちだとはいえ、少食のあたしに

「たくさん食べないと精がつかないですよ!」

そういって食べさす男性はベッドでも優しい。

江見くんは28歳というちょうどいい年齢も相まってかなりの人気を得ている。

それでもあたしとの食事は本当に楽しみと豪語する。嘘かもしれないし本音などは江見くんしかわからない。

江見くんの愛撫はいつもお肉の匂いがするけれど全く嫌ではないし、むしろ官能の火が余計に滾る。あたしも同じ匂いだし同じものを食べてきたからこそ同化した感じがする。お互いの舌と舌を絡ませたキスなどはさっき食べた肉を妄想させる。肉を食べその肉が肉になり血になり体液になる。あたしの体液はきっと肉の匂いかもしれない。

ただ、食事をするだけでもいい。

一緒に美味しいものを食べ、「おいしいね」「うん」そうやって会話をするだけでも満足を得られるのだ。

食事はセックスの前菜。食事をしたらその男性の大半がわかってしまう。

江見くんはそれを裏切ることなく豪快でエッチで素敵だ。

「ゆきさん、お肉って赤ワインだけが合うと思ってません? 意外と白ワインもいけますよ。白ワインって魚ってイメージが強いじゃないですか? いやいや、ちがうんですよね。ワインが基本赤でも白でもなんでも合うんですよ」

「へー。そうなんだぁ。まあ、あたしさ、本当は冷酒がね好きなんだよね。鬼殺しが」

「えー! まじっすか? 実は俺も本当は日本酒が好きなんですよ。寒い日の熱燗。最高っすね」

そうなんだね。今度は居酒屋に誘ってみようかな。

まだまだ行きたいところがたくさんある。あたしはどこに連れていこうかなぁってことだけで胸がいっぱいになる。



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