【女性用風俗小説13】~あたたかいくちびる~

そのお客さんとは初見だったけれど、出会った瞬間なぜだか同じ匂いがした。纏っている空気とか雰囲気とかなんといっても異様な気づかい。いやいや、風俗嬢のあたしにそんな気づかいはいらないし。
「あ、いいよ。いいよ。そんなにすぐにシャワーしなくても。てゆうかさ、ちょっとお姉さんと話がしたいなぁ」

えっ? そんなことをいうお客さんに出会ったことがないあたしは本当に驚いてしまい、え、あ、の、と、そんな感じでやや取り乱した。余裕を見せてけど実は……。的な出で立ちでもない。

「お、話しですかぁ、けど、時間がなくなってしまいますよ」

お客さんは90分という時間を提示した。90分って意外に長いようで短い。プレイをしたら一息をつく暇なく時間が来てしまう。

射精をさせることがあたしの仕事で話し相手になるのは仕事ではない。話に興じてしまい結果最後急いで手コキで。などというぞんざいなことになどしたくない。

「だから、」

あたしは、だから早くシャワーに、そういいかけたらお客さんが話を遮って

「いいから。ナオミさんは僕の隣に座ってよ」

鷹揚な口調で促された。

「僕はね、」お客さんの隣に座るとあたしの方を見ながらゆっくりと手をつないで話し出した。

「出張ホストなんだよ」

そっか。特に驚かない。そんな気がしたから。同じ匂い。同業者の。けれどどうして出張ホストが風俗嬢を? あたしは話しの続きを待つ。

お客さんもといホストのケントさんは普通に爽やかイケメンだ。紺のブレザーをうまく着こなしている。童顔な顔に黒目がちなアーモンド型の目。

「いつもさ、癒す方でしょ。だから風俗嬢さんにいつも僕がしているようなサービスをしていただきたくて呼んだんだけど、ナオミさんを見ていたらついお世話したくなって」

あはは。そこでケントさんはクスクスと笑う。えっ? なぜそこで笑うの? あたしは首をかしげる。

「僕さしてもらうよりも、サービスをする方がいいってわかったんだ。風俗を利用するの初めてだけれど、お客さん側のね、気持ちがわかったような気がする」

あたしはどんな風に気持ちがわかったの? と訊ねた。

「えー、なんていうのかなぁ。ドキドキするし、ワクワクするし。ナオミさん、綺麗だし。キスしたいし。触りたいしって。僕もお客さんにそう思われたいしそうなりたいなーって」

「そっか。じゃあ、今は、お客さんだと思ってキスさせてくれる?」

ケントさんはまばたきをしてから目を細めてあたしを抱き寄せた。いつもは裸と裸で無言の話しをし白い液体を放出させるだけのあたし。ケントさんの唇は柔らかくて甘い匂いがする。唇を少しだけ割って舌と舌を絡め合う。

あれ? キスを真剣にしたのいつぶりだろう。

ふと、そんなことが頭の中をよぎる。

ホストだからキスがうまいとか女性の扱いがうまいとかそれもあるのかもしれないけれど、風俗嬢もホストもやはり清潔感や見た目が大事だと察した。

長い長いキスのあと無理やりベッドに押し倒し横になって時間まで喋った。喋るのがあまり得意ではないのに同業という安心感からいやに饒舌に話しをするあたしがいた。

出張ホストの仕事も大変だぁ。けどこんなに女性にたいして渾身的な男性が増えたらいいのになぁー。って思いつつ、あたしはムスクの匂いに抱かれつつゆっくりと瞼をつぶる。

「今度はね、あたしがケントさんを指名するわ」

「あはは。ありがとう」



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