「おくさま、え? なにって?」
「だからぁ、」
職場の同僚の南さんと一緒にランチに来ている。オーガニック野菜専門店の人気フレンチ店。まわりを見わたす限り、女の人ばっかりだ。若い子からおばあちゃんまで。皆一様に楽しそうな笑顔をふりまいている。南さんの喋った最後の方の語尾はお店の中の人々の笑い声やらの喧騒に紛れ聞き取れなかった。
南さんは目の前のクレソンをフォークで突きながら、今度は少しだけ声をあげてつづける。
「【おくさま助け隊】っていうね、サイトがあるのよ。あたしね、なにを助けてくれるのかしら? なんて興味本意でそのサイトを見たのね。でね、なんだと思う?」
ふふふ、南さんは今度はパプリカをつつきながら微笑むように笑う。なんだと思う? なんだろう?助けたい、でしょ? ダスキンみたいに掃除やら草むしりやら用を足してくれるとかかなぁ?
「と、思うでしょ? 普通?」
「え? 違うの?」
前置きの長い南さん。本当に話しが好きだから。タクっ。
「性欲を助けるのよ。おくさま助け隊は」
ねっ、と、最後にウインクをしてまた笑った。そういえば最近の南さんは心なしか綺麗になった気がしないでもない。と、対面にいる南さんに目を向けると口の端に米粒がついていて、つい、ニヤけてしまった。
「性欲をねぇ〜」
おくさまの性欲を助けたい! をもじって【おくさま助け隊】か。笑えたけれど、ダスキンに仕事を頼むかのようネットで指名しメアドが書いてあるから勝手に連絡をして会うシステムになっていた。
南さんの気に入りの子はやめて、他の子を閲覧する。真面目そうな『荒木』という男の子(30歳)といくばくかのコンタクトを取り合い、会うことになった。
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「わ、本当に普通な感じだぁ〜」
「普通です、てゆうか僕、普通に会社員ですよ」
荒木さんは副業だった。まあ、専門でしているとは思ってなかったけれど。
「じゃあ、荒木さんは偽名かしら?」
ベッドの上に並んで座っている。普通のビジホの一室に。荒木さんは首を横にふる。
「え? 本名?」
「はい、なんて、嘘です」あはは。豪快に笑った。おもしろい人だなぁ、全くイケメンでもないし。それこそずっと知り合いだった気がするし。
「奈菜子さんは偽名なんですか?」
あたしも首を横にふって
「本名ですよー」と、明るくこたえた。
「ですよねー、お客さんが嘘の名前あまりいわないですもん」
荒木さんはスーツだった。シャワーはいいわ。あたしは荒木さんの着ているものを脱がして匂いを嗅ぐ。営業職なのだろうか。薄っすら汗ばんでいて男性特有の匂い鼻腔をくすぐる。嫌悪感を抱く匂いではない。むしろ舐めたくなるほどだ。
「舐めたい、いい? 全てを」
ベッドに仰臥している荒木さんは靴下以外のものはなにもない。無防備なその身体にあたしはムジャブリついた。あっ、たまに声をあげるお金を介してあっている荒木さんをとても愛おしく感じる。足の指から手の先、顔に至るまで全て舐め尽くてあたしはまるで天然のシャワーになった。鉄柱は勃っているが、そこだけは違反のような気がしてやめた。
「あれ? これじゃあ、僕が奉仕されっぱじゃないですか?」
荒木さんはぼそっとつぶやきいて上体を起こしてあたしの洋服に手をかける。あたしは、いやいやするように抗う。あの、聞いてくれるかな? あたしの口が開きだす。
「舐めるのが好きっていうかね、奉仕をしたいの。男性に。で、自分の身体はっていうと全く触ってほしくないの」
ほほう。荒木さんは真剣に聞き入る。
「だからね、あたしの性欲は、男性を気持ち良くさせると発散できるのよ。だから今夜は荒木さんはあたしの性欲を立派に助けたわ。よっ、助け隊!」
ちょっとだけおどけてみせる。荒木さんも笑いながら頭を掻いた。
「性欲の種類なんて人それぞれ違うから。奉仕をされたい、受け身の女性がほとんどだし奉仕をしたいなんていう女は多分に稀ね、きっと……」
荒木さんは裸のままあたしをそうっと抱きしめた。そのぬくもりの中にあたしの唾液の匂いも混じっていて余計に満足感が脳内を支配していく。
【女性用風俗小説20】~おたすけマン!~
