【女性用風俗小説22】~デートにはルージュを~

SNSで最近よく流れてくる『女性専用風俗』というものに興味があって様々な『女性向け』を閲覧をした。正直さみしかった。会社に行き、誰もいない部屋に帰ってくる日々。

都内住まいだけれど都会ならではこその孤独がある。窓の外には環状線が走っている。なにをそんなに急いでいるの。タバコを燻らせながらいつもそう思う。急いでいるの、か。その言葉はあたしの心の中に矢を放つ。癒されたい、喋りたい、触ってほしい。その欲望だけが頭をもたげる。

あたしはいくつもある中からあくまでも普通そうな感じの『寺岡さん』をお願いした。年齢は35歳。あたしと同年代だ。きちんと書かれた写メ日記? とやらにも顔は載せてはいないけれど、パネルの顔(ぼかしてあるけど)からしてもきっとタイプだろうということは察知できる。

癒されたい……、『寺岡さん』はあたしをどうして癒すのだろう。

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「えっ」

待ち合わせの場所に行くと、待ち合わせの切符売り場の前に金髪のちょっとだけ恰幅のいい男性が立っていた。スマホをいじっている。うつむいているので顔は把握できない。けれど、金髪……、まさか。

近寄ってその場に立つと

「沢田さん?」

やや低めの声で名前を呼ばれた。あ、ち、違います、そう断るのは簡単だった。しかし、見た目との派手さはその低めのボイスによって払拭される。あ、はい、沢田ゆうこです、なんてあたしは律儀に名前と苗字を名乗っていた。

「あはは、ゆうこさんですね。名刺でも出てきそうな挨拶ですね。うん、とても素敵です。その赤いルージュもね」

赤いルージュ。そう、あたしは今夜真紅のルージュを引いてきた。あたしではないあたしを演じるために。

「ありがとう。寺岡さんも。金髪お似合いだわ」

「そうですか。ありがとうございます」

いきますか、寺岡さんはあたしの手をさっと取って歩き出す。どこにいくの? その言葉がいえない。とゆうかいわせてくれなかった。

赤提灯のかかった居酒屋で軽く飲んでホテルに向かった。「あ、僕が払いますよ」まさかお金を払ってあってもらっているのに、寺岡さんの言葉に驚いた。「僕の方がたくさん食べたので」そう、はにかみながらつづけた。この時点であたしは彼にすでに癒されていたのかもしれない。

「オイルとパウダーどっちがいいですか?」

どっちが得意ですか? あたしは反対に訊き返す。「おー、そうきましたかぁ」ククク。寺岡さんは目を細めた。

「じゃあ、まあ、うつ伏せから」

部屋はこじんまりした赤を主張とした部屋だった。燃えるような赤。興奮をそそる赤。赤が全面に出ている部屋はいかにもな部屋だ。

背中にさわさわという感覚がして顔を上げ振り向くとパウダーが舞っていた。

「パウダーを使って触っていきますね」

顔を元の位置に戻しつつなにもいわずに身を委ねた。背中にあるパウダーが寺岡さんの繊細な指先によって滑ってゆく。ゾクゾクとさせる指先にあたしは知らぬうちに悶えていた。声が、つい、出てしまう。背中からお尻、太もものあわいにまで指先が悪戯を始める。

金髪の髪の毛にパウダーが舞っている。それはなんだか夢でも見ているような光景だった。

「あれあれ」

施述が終わり呆然となったあたしの顔を見て、あれあれ、と苦笑まじりにいいながら、タオルであたしの口を拭う。

「せっかくのルージュが台無しだ」

タオルにはあたしには全くそぐわない真紅のルージュが付着していた。やだぁ、ついちゃったわ。あたしはクスクスと笑う。寺岡さんも同じように笑った。

「ねぇ、」

あと、少ししか時間がない。どうしてもいいたいことがあって肩をポンと叩いた。

「わかりました。僕も、そう思います。見た目じゃない。そう優しさですね」

「そうよ。あたしには真っ赤なルージュは敷居が高いわ」

今夜はよく眠れそうな気がする。きっと。パウダーの匂いはラベンダーだった。

次週、また寺岡さんの日記を読んだ。

【黒髪にして3日目。うん、とても新鮮ですね。おっさんぽくなってしまったかもですが、中身は優しいおっさんですよ】

カフェのテラスで撮ったであろう写メが添えてあった。

『あのね、金髪は、こわいわ。きっと黒髪にした方が指名が増えると思うの』



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