依存なのか、中毒なのか、自分でもよくわからない。日常の中でふと、頭に浮かぶのが『ミナトくん』の真正面からみたその顔立ち。目はあきれるほど大きな黒目を持ち、筋の通った鼻梁。薄くもなくかといって分厚くもない唇。そうしてあたしは唯一無二に好むのはその手だ。ほっそりしていて、男性なのに白魚のような……、とかではなくむしろその逆で手が汚れているのだ。その汚れは彼の日常を物語っている。
あいたいよぅ……。
先週あった分だった。けれど、また今週も予約をいれてしまう。決して安くない金額だ。キャバ嬢にお熱をあげる男性の気持ちが最近よくわかる。決してわかりたくなかったけれど。
お金が介在している間柄だからこそあいたくなるのか、これがもしプライベードならどうだろう、とか、考えたところで理由などはない。
好きだから。あう。今はただそれだけだ。
あたしは29歳の普通の事務員。地味な顔に地味な制服をまとい地味に生きている。
「お金を払う彼氏かぁ」
つぶやいた声は三月の匂いをぞんぶんに溜めた空に吸い込まれてゆく。春めいている毎日の中でミナトくんはあたしのオアシスだ。
「僕がぁ? オアシスですかぁ?」
夜ミナトくんを自宅に呼んだ。最初と2回目だけホテルにしてあとは自宅。「ホテル代もったいないっす」ミナトくんからの助言で。
「そう、今あたしの生活の中のオアシスなの。ミナトくんは」
「あーざーす」
けど、大袈裟だね、ミナトくんはちょっとだけはずかしそうにうつむいてそう付け足す。
「お腹空いてない?」
時計は午後8時を回っている。昨日つくったビーフシチューがまだ冷蔵庫にあったのを思い出す。
「あ、わかります? お腹鳴ったの聞こえたの?」
あはは。あたしたちは互いに笑った。急に静寂な時間が流れ、対面しつつ抱き合って唇を重ねた。長い長いキス。ミナトくんの手のひらがあたしの後頭部にそっと添えられる。あ、あの手があたしの頭に。キスは徐々に大袈裟になってそのまま縺れ合いソファーに寝かされた。
「指を、ミナトくんの指を、ちょうだい……」
ミナトくんはうなずき、あたしの口元に指を持ってくる。あたしはそれを掴んで自ら口の中に入れて一本一本確かめるように丁寧に舐めた。冷静に見守るミナトくんの目は嘲笑っているようにも見えるし、しかし決していやそうでもない。口の中でうごめく指先が歯や喉の奥をおかす。指だけで頭の中がおかしくなりそうで、いや、もうおかしくなってあたしはいつの間にか裸になっていた。
あたしの唾液にまみれた指先で乳首をつままれる。
「あっ、あああ、」
声がたくさん出てしまい、それでももうとめることなど決して無理だった。指はあたしの身体を這いずり回る。そういて何度も頂点に達した。
汗だか唾だかわからない気だるい身体のままぼーっとしていた。
「……、ゆ、指、」
隣にいるミナトくんが指を差し出しながら口を開く。やや間があったけれどあたしは待つ。
「僕、塗装屋で、車の。この指の色は落ちないんですよ。きっと仕事を辞めたらいつかは落ちるだろうけれど、俺、この仕事以外したことないから、多分永遠にこんなに汚い指っすよ」
手をひらひらとさせるミナトくんの横顔にはまだ少年の逡巡と葛藤が残っていた。
「いいんじゃないの、好きよ。働く指」
少年から青年に脱皮しようとしてる目の前の彼。この先きっともっといい男になるにちがいない。
「そういえば、めちゃくちゃ腹減ったっすよ」
「あ、そうだったね。ビーフシチューでいい?」
わお、大好きです! てゆうか多分なんでも喜んで食べると思う勢いだけれど、今夜はビーフシチューでよかった気がしてならない。
明日もまた仕事がんばろうと思う。
「ね、」
【女性用風俗小説25】~もっと、して……。~
