【女性用風俗小説26】~ハッピーバースデー~

鏡の中の自分の姿を見たくないと思い始めたのは何歳からだっただろう。毎日見ている同じ顔なのに毎日どこか違いを見つける。けれど、それは決して良いほうの違いではない。悪い方の違いだ。

あれ? こんなところに。なんて科白をよくドラマなんかで聞くけれど、あれ? こんなところにシミ? と今朝まるでドラマの中の熟女女優のよう声に出してしまっていた。

誰にでも平等に律儀に歳は取る。

明後日あたしは51回目の誕生日を迎える。

平成最後の誕生日だ。世間ではなににしても『平成最後の』だとかいうけれど、それがどうしたってことはないけれど、あたしもその流れにうまく乗りこみ、思い切って『女性向け風俗店』の扉を叩いた。

処女ではないけれど、独身だし、前回いつ男性と触れ合ったのかおぼえがない。これはまずい。潤いもなくなってきているのは顕著だ。たまたま深夜のテレビで『女性向け風俗店』の存在を知った。

へー、そうなんだ、くらいにしか見ていなかったけれど、見ているうちに、わー、呼んでみたい、に気持ちが移行していた。なので思い切って明日の誕生日に呼んでみることにした。だって『平成最後の誕生日』なのだし。あたしの女の部分はまだ幸いにも残っていたようだ。

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「こんばんわー」

待ち合わせの場所にぼーっとたっていたら、背後から語尾をあげながら挨拶をする男性に声をかけられた。振り向くと、そこには茶髪の若い男の子がいた。カラコンの青い目が前髪の隙間に垣間見える。

「あ、わ、はじめまして」

「かずこさん? ですよね? その赤いバックと白い靴」

その出で立ちのままのあたしは、首を小さく曲げてうなずく。けれど……。若い。なるべく、年齢の高めの男性でお願いします。と、前もっていってあったのに。

「行きましょうか」

目の前の男の子はそう続けた。とても自然だったのであまり驚かない自分に驚く。若いけれど、女性の扱いにいたってはあたしよりも何百倍も勝っている。

「どこに?」

「えっ?」

どこに? 男の子はあたしの言葉を繰り返して、ははは、と笑う。

「どこに行きたいですか。てゆうか、僕、たくやといいます」

やっと、名を名乗ったたくや青年は屈託なく言葉を継いだ。かずこさんの行きたいところへ。どこでもなんでもいいですよ。鷹揚な声が心に沁みる。あたしの子どもでもいいくらいの年齢なのに。そんなこと微塵たりとも思わせない自信たっぷりな行動に目をみはる。

あたしはホテルに行き、あんなことやこんなことを。などどありきたりなことを考えていた。そのつもりで呼んだわけだったけれど、なんだか気が変わった。

「えっと、今から一緒にケーキバイキングに行ってくれませんか?」

誕生日なので。ということは心の中でいう。たくやくんは、えっ? と、豆鉄砲をくらったような顔をして、いいですよ。と、素直に従い微笑む。僕、甘い物が大好きです、そう付け足して。

あたしたちは待ち合わせ場所から手を繋いでカフェまで闊歩した。たくやくんは人の目も気にしないであたしの手をとり、時折抱きしめたりしながら夜の道を並んだ。

春の夜気はあたたかさとつめたさが混在していて手に汗をかく。

「手、汗ばんじゃったね。ごめんね」

信号待ちでのタイミングでそう告げるとたくやくんは、繋いだ手を離すどころかブンブンと高く振り上げて

「かずこさん、お誕生日、おめでとう!」

深夜0時。

ほとんど吠えるような大声で叫んだ。

「えっ?」



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