ユズキ(柚木)とは『女性専用風俗』で出会った。ユズキはお店の源氏名で【皆側ゆず季】となんとも風情のあるホスト名だけれど、本名は【柚木翔】といい、これもまたホスト然たる名前だね、と、一緒に住み始めてからいくどとなく会話に登場するようになった。
「りかちゃん〜」
ユズキは天性のホストだと思う。甘いマスクに甘い声。それにその体躯。身体がすばらしく綺麗なのだ。ユズキ目当てのお客さんはたくさんいる。ファンクラブがあるみたい、そんな芸能人みたいなことをさらっと口にする。
「へー」あまり興味がないので聞き流す。「嫉妬しないんだ。りかは」嫉妬? 嫉妬などしていたら身体も心もとうにおかしくなっている。
「いいえ」しないわよ。あたしはつとめて平然を装うけれど本当にあまり嫉妬をしていないのかもしれない。だって、ユズキはいつもあたしのところに帰ってくるのだから。最後はあたしのところに。
彼女ではない。なのに。一緒にいる。
1年前くらいに知った『女性専用風俗店』は好奇心で呼んだ。誰でもよかったし喋り相手が欲しかった。都会での一人暮らしは心もとない。そんなときに出会ったのがユズキだった。
「えー! 同い年なんだ」から話題は始まり「えー! 出身◯◯とか同中じゃん」みたいな偶然があたしの心を潤し、何度も何度もユズキを指名した。アパートだったのでホテル代はかからない。そうこうしているとき真夜中チャイムが鳴って、えっ? だれなの? こわい。あたしは防犯用の金属バッドを持って玄関の扉を開けるとそこにユズキが捨てられた猫のようにぼんやりと立っていた。
「行くとこがないんだよ」
真夜中の突然にあらわれた訪問者にあたしは特に驚くこともなくすんなりとうちに入れホットミルクをマグカップに注いでユズキにのませた。
なにも喋らない彼に対してあたしもなにも訊かなかった。その夜始めてお客さんではいあたしは彼と結ばれた。お店では最後まで禁止だった。けれど、ホストでないユズキはまるで子どものよう震えながらあたしを抱いた。その夜のことは今でも鮮明に覚えている。あの日から彼はいつのまにか猫のよう居座っている。
追い出すこともなくかといって養っているわけでもない。彼はきちんと毎月お金をくれる。ユズキのことを彼氏だと思っているオンナの子には罪悪感などは皆無。ユズキはプロの出張ホストとして夢と時間と癒しを売ってお金に換金しているのだ。あたしは影でそれを見守り話を聞いてあげる同居人。
「明日さ、りかお花見行こうよ。休みだろ?」
「え? うん。休みじゃないけどね。遅番だし行けるよ」
そんなあたしの職業は風俗嬢。彼も知っている。風俗嬢だからといって心までは売らないしあたしだってプロに徹して仕事をこなしている。どんな仕事だって矜持を持ってしていたら胸をはることだって出来るのだ。あたしは風俗の仕事は立派な仕事だと思っている。
だからユズキに嫉妬もいだかないし逆に応援したくなるのだ。
「花粉がさ、すげーなぁ」
「すげーなぁって」
ユズキの鼻から鼻水が垂れている。鼻かんでよ。あたしは急いでティッシュをひっぱりユズキに渡した。
「ゲゲ、なんかさ、エロッ」
「ん?」
【女性用風俗小説30】~ジェラシー?~
