「ま、まじっすかぁ!」
「これ、あげる。欲しいって前にいってたよね」と、前置きをして渡した青いリボンの中の小箱を開けたユイトはまるで漫画でよくみかける目玉がとびでたイラストの男の子にすごく似ていた。
「ま、まじで……」
まるで信じられないとでもいうよな真顔でもう一度つぶやく。
「受け取って」「で、でも」この押し問答を3度ほど繰り返しやっとユイトはそれを手に取った。まじで嬉しいっす、ありがとうです、と、付け足して。
「でも、」ユイトが手に取ったものを見つめつつ「一体梨華さんってなにものなんですか?」と、探るような目つきで質問をしてきた。と、ついでに何歳なんです? どうせなら訊いてしまえ。俺。ユイトの心の声が手に取るようにわかる。なので質問が2つになった。
「MODEAL(モディアル)はおとなしいデザインだしシンプルでしょ? けどサイコロの形をしていてプラチナなんてイケてるって思わない?」
質問とはまったく違うことをこたえた。あたしも同じものもってるわ。「へー。けど、梨華さんじゃメンズだし重たくてごつくないです?」
「いいえ」あたしは首をよこに振った。いいの。ごつい方が。なんかね、強くなった気がするもの。ユイトの顔が歪んだ。うまく笑えてはいない。
部屋の中の音が消える。無言の空気がたれこめる。たっぷりした時間を要したあと、あたしの方から口火を切った。
「あのね、」「は、はい」ユイトの身体が前のめりになる。
あたしね、あたしの職業はね、アイジンなんだ。で、年齢は23歳よ。
「アイジンって? あのアイジンなの?」
あたしは苦笑しながら「ほかにアイジンなんていう職業があるのかしら?」ユイトは肩をすくめてみせる。
「あたしだからユイトより1つだけおねえさんになるわね。もっともユイトの年齢が嘘でなければ」
高層ビルの外から小さな雨音がBGMのよう聞こえてくる。あ、雨降ってきたみたいね。ユイトはまだ黙っている。
「65歳の社長の愛人よ。20歳からずっとね。高層マンションに住まわせて好きなときにあたしを抱きにくるの。けれど、年齢のせいっていうの? 勃起がままならなくてね。自分の下半身が不自由になると男っていきものはどうしてだか女の方に怒りの矛先を向ける。あたしを四つん這いにして背後からクスコを膣に突っ込んで中を見てね『おー、なんて綺麗なおま◯こだ』とか『おまえの子宮は下付きだな』とかいって婦人科の先生みたいな口調になるのよ」ふふふ。
唖然としているユイト。あたしはさらに続けた。
「膣の中を見てて興奮をするのかそのまま舌先で舐めてくるの。最初はいやだったけれどね、けど、けどさ、その舌でイっちゃうの……」
ー女だということにたまに絶望をするの
雨の音がさらに強まる。あたしの声は雨音に負けている。頬にも雨がつたう。ぐっと抑えてきた感情が吹き出してしまった。出張ホストであるユイトの前では絶対に弱音を吐かないし本性はあかさないと決めていた。
「もういい」
真っ白なシーツをふわりと被せてユイトはそのままあたしを抱きしめる。糊の清潔な匂い。
「誰にだって秘密はあるし泣きたいことやどうしょうもないこともあります。僕も嘘ついてます。本当は19歳です」
シーツ越しに聞こえる声と熱気。あたしは肩を震わせ声を押し殺して泣いた。お金に困っているわけではないしこうやって好きにホストを呼んで高級ネックレスを買いあげく職業が愛人でクスコでおま◯こをみせる。23歳のあたしはこの先どうなっていくのだろう。ねぇ、ユイト教えて? あるいはあたしと…。
【女性用風俗小説31】~アイジンのおきて~
