こんな裸を誰かに見られたら絶対にひかれるに決まってる……。
『こんな裸』にしているのは妻子持ちのあたしの上司だ。とんでもないサディストで優しい顔からはまるで想像もできないほどあたしを虐める。
キスをするにしたって唇を噛み乳首をおもいきりつねり上げ、セックスの最中は絶対に首を絞めるし、背中を向けたら最後、背中じゅうに歯を立てる。
仕上げは彼の身体を隈なく舐めあげ綺麗にしないとならない。
ぐちゃぐちゃな顔と髪の毛のままで。
『いやぁ、やめてぇ』
抗い嘆き呻く声にあたしも彼も手に負えない。それでも関係は続いている。彼はどエスであたしがどエムだからだ。Sの男性はノーマルなプレイほどつまらないものはないという。スミタさんはあたしがMでなかったらとうに別れているだろう。既婚者の上に上司なのだから。
3日前のおこないのとき背中をたくさん噛まれてまだ歯型が残っているし、ともすればうっすらと血も滲んでいる。傷が癒えたころにあう。そのほどよいスタイルでもう4年。
あたしの身体はもはや普通では物足りなくなった。
『りな』
スミタさんがあたしを呼ぶ。会社のお昼休みに。ちょうど誰もいなかったから呼んだらしい。
『はい』
スミタさんはニタニタと笑いながらあたしの耳元でまるで子どものようにひそひそと小声になってとんでもないことを口にした。いいな、わかったよな。それはもう聞く前から決定されているようだった。否定などできるわけがない。否定をしないとわかっていてスミタさんは予定を組んだのだから。
スミタさんの提案はあたしが縄で縛られているところをみたいしそのまま虐めたい。というその提案だった。え? 誰が縛るの? スミタさん? スミタさんは『いいや』と瞬きをゆっくりとして、一旦言葉を切り、アイコスを灯す。スーッと吸ってハーと吐き出したあとで言葉を続けた。
『出張性感ホストだよ』
え? つい声をあげてしまった。ホスト。ホストって男だよね。スミタさん以外の男があたしの裸を見てどう思うのかしら。いくらホストだからってひくよね。心の中でつぶやく。けれど興味があった。緊縛に。出張ホストに。
「こんばんわ」
ホテルの一室にスミタさんとあたしと『出張ホスト』が顔をあわせた。
えっ? 少しだけ拍子抜け。ホストって顔がいいものだって思っていた。いやいや、スミタさんの顔面偏差値が東大並みに高いので比べてはいけない。
「ハクといいます。よろしく」
まずスミタさんにいい、次にあたしの方を向いて挨拶をする。
「ハクさんって、」
あっ、あたしはそこまでいい口を噤む。
「し、縛れるのよね?」緊縛で呼んだのにアホくさいことを訊いた。ハクさんは、ははは、と大仰に笑い、ええ、専門ですよ、と、付け足す。
へー。そうなんだ。けど、なんだか似合うわ。また心の声。あたしは即座にためらいなく肌をさらした。スミタさんに命令されたから。
「じゃあ、縛っていきますね。まず、腕を前に出してください」
歯型だらけの身体を見てギョッとなった形跡はない。きっと見慣れているのだと思った。カップルで呼ぶお客さんはきっとM女が圧倒的に多いのだろうか。
素早い手つきで縄が身体を滑ってゆく。ああ、身体がぁ、どんどん弛緩していく。拘束をされているのに自由になってゆく。スミタさんの卑下た目つきに余計に粟立つ。ときおり故意なのか乳首に縄があたり、あっ、と、官能の声がもれた。
「写真撮ってもいいかな」
家族に内緒で持っているスマホにあたしの縄姿をおさめていく。「どうだ? 感じるのか?」スミタさんの方が興奮をしているのが伝わってきた。身動きの出来ないあたしをベッドに押し倒し髪の毛を引っ張り背中を噛んだ。今夜はいつもの何十倍興奮をしているようで、挿入をしても呆気なくイってしまた。
ホスト・ハクさんは縛ってからはしばらく傍観者だった。じっとあたしの痴態かたまばたきもしないでみつめていた。ハクくんはどんな気持ちであたしを見ていたのだろう。スミタさんはまた男性の前で裸をさらすことに羞恥心はないようだった。
「ハク、ありがとうな」
時間がきて身支度を整えたあとスミタさんが声をかけた。
「いえ、また呼んでください。先輩」
先輩?
帰りしな軽く遅い夕食をとりながらスミタさんが淡々と話し出す。
「あいつ、俺の高校のときの後輩なんだ。で、相撲部だったの」
「うん。そう思った」ふふふ。あたしは彼の容貌を思い出して笑みが溢れる。
「ハクは本名なんだ。博って書いてハクって読む」
へー。そっちか。あたしはつい横綱の『白鵬』を浮かべた。
「あ、いま、白鵬を思っただろ? りな?」
ははは。スミタさんは声をあらげて笑う。
「いいえ」あたしはうつむき否定をしたけれど、相撲好きだし、きっとばれているし、それでも首を縦にはふらなかった。
「あいつさ、今彼女居ないってさ」
「ふーん、それで?」
【女性用風俗小説35】~しばられたいの~
