【女性用風俗小説36】~ここからだして~

ー今日は雨じゃないわー

朝なのか昼なのかわからない時間に起きてベッドの横にある熱のこもっているカーテンをあける。ムワンと窓の外にへばりついた熱が顔に直面しあたしはまたカーテンを戻した。

ー雨だったはずよ。今日の天気はー

昨夜は確かに雨がシャワーのように降っていて雨音がいいBGMになり眠剤を飲まないでも眠ることができた。こうも好天だとおもてに出ないといけないのでは罰があたるのではないのだろうか、という感覚におちいる。けれど雨ならばうちにこもっていてもいい、と誰しもが許してくれているようで雨の日が好きなのかもしれない。

ひきこもりになって3ヶ月がたつ。必死で働いてきたのに車内での陰湿なイジメにあい精神を病んで辞めざるおえなくなった。会社側からのリストラ扱いにしてくれて給与の面ではしばらくは安心だけれどその代償はひどく大きい。おもてに出るのがこわい、人の視線がこわい、世界の色が全て灰色に染まって見える。

「冗談じゃないわ」

あたしは誰にでもなくつぶやく。独り言が多くなった。もうまる一週間深夜にいくコンビニ店員ぐらいしかろくに口をきいてない。喋らないので自分の声を忘れかけている。笑わないのでシワは増えないのでいいのかもしれない。孤独。孤独はちっとも退屈ではない。むしろ孤独こそが人生かもしれない。と、思う。

それでも誰かと他愛ない話をしたいときは『レンタル彼氏』に頼ることにしている。お金で彼氏を買う。たまたま見ていた動画で知った。本当に実在することにほとんどおどろいた。気が向いらときに呼んでいる。汚い部屋の中に。ベッドが主役のような雑多な部屋に。

「まったぁ、こんなに散らかして〜」

久しぶりに部屋に来た『ハルキ』がぶつぶついいながらテーブルにあるコンビニ弁当の空だの空き缶だのを仕分けしつつ文句をたれる。

「ほっといてよ。あなたはあたしの喋り相手として呼んでるの。余分なことはしないで」

短パンとTシャツ姿のあたしはあまりにも子どもじみている。伸ばしっぱなしの髪の毛は腰までありあまりにも痩せていて頼りなさずぎる。腕なんて鶏ガラのようだ。あらから片したハルキがあたしの横に座る。いつもの香水の匂いと違う。彼女が変わったんだ。直感だけれどそう思う。人間は匂いを真っ先におぼえる。生理的に受け付けない匂いがある。その逆で好きななつかしい匂いもある。ハルキからは最初からなつかしい匂いがした。香水じゃない香水の裏の匂い。

ハルキがあたしを抱え込むように抱きしめる。線は細いのにきちんとした男なんだと知る瞬間。だけど他の女も同じよう抱きしめているだろうと思うしてはいけない嫉妬心。そのはざまであたしはハルキから愛撫をうける。

「あっ、あああ、」

そのときにやっと自分の声を意識する。あたしってこんな声だったんだ。あるいは、こんなにいやらしい声を出せるんだ。と。今夜のハルキは執拗にせめたてた。容赦なくあたしの身体を愛撫した。生きているんだと知らしめるかのように。

「ねぇ」

冷蔵庫からミネラルウォーターを2本取りだし1本をハルキに渡す。サンキュー、という仕草をしそれを受け取る。冷たい水が渇いた喉を潤してゆく。

「早く梅雨にならないかな」

「え?」

またカーテンをそうっと開ける。もうすっかり夕方から夜になりかけている。遠くのビルやマンションが逆光で黒くなっていていまにも切り取れそうだ。

ハルキは黙っている。いつも黙ってあたしの話に耳を傾ける。明日雨なら職安に行ってみよう。けれどそのことはハルキにはいわないでおこう。かわりに

「梅雨になるとね、かわいい長靴が履けるのよ」

「あー、そうだね」



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