【女性用風俗小説37】~ウランくん~

ガーッ、

はっ、今あたしは確かにいびきをかいてた。やだぁ、と思いながらゆっくりとまぶたを開く。隣にいる人の方に身体を向けるとその人も『ガー、ガー』と、まるで子どもじみた顔をしておじさんのようないびきをかいていた。

どうやら眠ってしまったようだ。まんねん不眠のあたしなのに『ウラン』くんといるときだけ睡眠薬でも飲まされたかのよう必ず眠ってしまう。ラブホテルは窓がないし時計もない。ベッドの上にあるちいさなヘッドライトだけがぼんやりと灯っている。午後の1時にホテルに入ったことだけは確かだ。最初の1時間はきちんと『おしおき』をしてくれる。性感ホストのウランくんのプロフィールに『ドS』と明記されていたのと『だけど小心者』と、Sなのに小心者だという点に興味と好奇心がいっしょくたになって呼ぶようになってからもう半年になる。月に2度。なので12回あっている。8回目あたりからさんざんいたぶっていただいたあと恒例のよう眠たくなりひととき眠るのが習慣になってしまった。

なんて心地のいい眠りなのだろう。自分でも驚いた。今でも驚いている。不思議な存在のウランくんは髪の毛をピンクに染めている。たぶん20代半ばだろう。年齢など興味もなく聞いていない。ウランくんも聞かない。わかっているのはあたしの子どもでもおかしくない歳の差だということだけだ。

初見でのSMプレイでは腹が立った。

『このど変態が』とか『もっといじめてほしいのか』とか『叩いてほしいのか』とか。確かにSMプレイを懇願したのはあたしだったけれど初見で見知らぬ年下の男になにをされても腹が立った。あれ? あたしMじゃなかったんだ。と、そこで知った。生粋のMならいじめられることに快感を得るはずだ。けれど違った。得たのは憎悪と諦観だけ。

(愛してるからSMは成立するんだ)

そのときほど痛感したことはない。好きでもない男にいじめられてもいらつくしその男を蹴ってしまいたくなる。

Mの女は基本的に構ってほしいかまってちゃんでひどくさみしがりやで孤独をもっとも嫌悪するのだ。あたしもその一員だ。

「あっれ〜、寝ちゃったわ」

天井を見つめながらぼんやりと考え事をしていた隣からハスキーな声が聞こえる。

「ゆりさんも寝てたでしょ?」

ウランくんは頭を手で支えながら重ねて続ける。

「寝てた」

だろ? 俺らってすぐ寝るよなぁ。ははは。

ゆかいそうな声が心地よかった。そうね。あたしも、ははは、と笑う。

「今日ゆりさんの苦悶の顔よかったよ」

ん? あたしは首をよこにふって、まぶたをとじる。ゆっくりと呼吸するように。

「だって、」

だって。なあに? ウランくんの心の声がする。だって好きになってしまったんだもの。あなたを。

「だってね、あたしMよ」

「わかってるよ。ゆりさんは素直で乙女チックなMってことはさ」

そうね、あたしはみじかくこたえる。そうして、今何時かな? とたずねる。ウランくんはベッドの上にあるスマホのロックを解除し時間を確認する。スマホの灯りが顔をあかるくうつしだす。シワもシミもヒゲもない清潔な白い肌。

「もう6時みたい」

「そう」

現実味のない個室はひんやりと冷たい空気が流れている。このまま時間が止まればいい。

「腹減ったなぁ」

ウランくんがタバコを咥えながらテーブルに移動する。

「泊まってこっか」

あたしは自由なのだ。ウランくんを引き止めても自由なのだ。

「うん。嬉しい!」



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