「どうしてオトコってさ、手に入れた途端徐々にめんどくさくなるかしら?」
午後の3時。梅雨の合間であろう今日は空がバカバカしいほど澄んだ青をしている。まるで絵の具の空色だ。あまりにも空が綺麗なのでカーテンを閉めていない。
「ええーーー! それ、俺に聞くんですかぁ? 意地悪っすよ」
お手上げのポーズをとって彼は口を尖らせる。だって、あたしは次の言葉を舌先にのせて、続ける。
「だって、最初はね、こっちに夢中なのにこっちが夢中になるのがわかると距離を取ってくるわ。ましてやあっちが既婚者の場合はね」
ふーむ。彼は真剣な面持ちで何か気の利いたことをいおうと考えている。ふふふ。つい含み笑いをしてしまう。
「真剣なのね」
あたしはクスクスと笑う。けれど、もういいの。と、付け足して。やや時間を置いて彼が切り出す。
「でもさ、全てのオトコがそうではない。不倫をしているオンナの戯事に聞こえます」
あ、いいすぎた。そんな顔をし彼はうつむく。すみません。いいすぎました。と蚊の鳴くような声を出して。
「忘れさせてよ」
あたしは本能のまま火照った身体を持て余していた。今夜は誰でもいいからオトコと過ごしたかった。お金を介してもいい。なのでオトコを買うことにした。オトコを買うとかいうと嫌な言い方だけれど、オトコの時間を買っているので買っているには違いない。彼は、ええ、もちろんです。と、きっぱりとオトコらしくいい切り、あたしの頬を持ち上げてキスをした。ディープキス。ベチャベチャになりながら唾を絡ませ合う。まだ出会って数時間しか経ってない。なのに素性を知らないからだろうか? あたしの陰部がこれでもかというくらい子宮がキュンキュンと鳴ってそのいちいちがうるさかった。
彼は何もかもが素直で素敵だった。さすがプロ。そう思わせることも平気でやってのける。今まで経験したこともない『潮』をクジラのよう何度も吹かされてしまい、脱水になりそうになった。潮など一生吹かないと思っていた。なんともいえない爽快感。逝く感覚とはまた違う気持ちよさ。
「すごい。あたし初めてだ。潮吹くんだ。あたしでも」
声が呆気に取られいた。まるで自分のことではないみたいなことのように。
ははは、彼は屈託なく笑い、『忘れられましたか?』と、質問をしてくる。
「いっときね。忘れたわ」
本当だった。快楽を得ている時、不倫のオトコのことをすっかり忘れていた。忘却だ。
「オトコを忘れるためにね、俺を呼ぶ人結構います。いいんです。オトコを忘れるにはオトコ。そうなんです」
ゆったりした口調にあたしはうなずく。目頭が熱かった。気を許したら涙が垂れそうだった。
「ありがとうね、修さん」
彼は、いいえ、と短く返事を返す。
修さんを呼んだ理由は不倫相手の名前が『修一』だったからだ。どうでもいいことだけれどどこかあたしの中でやっと吹っ切れた気がしてならない。
「僕は週末しか出てません。昼間は現場仕事で」
へー。不倫相手のオトコは現場監督だった。偶然? あたしはまたクスクスと笑う。
ん? そんな顔であたしを見つめる修さんはよく見れば彼に似てるような気がしてならない。
まさか。まさかね。
【女性用風俗小説40】~うさばらし~
