「えーー! うっそー!」
いやいや、声が大きいってば。あたしは目の前の女友達に向かって口元に人指し指を持っていき、もういっかいシーっといいながら制した。
「だってよ。だってねーーー、」
女友達はだってだってを2度繰り返したのち、頼んだカルボナーラスパゲティをフォークに巻きつけながら喋りだした。
『結婚して21年も経つのに、まだセックスしてるなんて。信じられないって。あなた達夫婦はある意味、神だわ』とか
『うちなんかさ、もう寝室だって別だし、だからね、もうそうゆうの、ん〜、え? あれ、どれくらいしてないだっけ。ってほど遠い昔のことで忘れたわ』とか、まるでしてない方が普通のような勢いでまくしたてた。
「けど、まあいろいろな夫婦がいるからね〜」
散々おどろき散々喋ったあとで結局こう締めくくった。
真昼間のちょっと洒落た洋風のお店で高校時代の女友達とランチをしていて下ネタの話になったのだ。
まわりを見渡すと店内は皆女だった。料理人は男性で他は皆女。年齢はまちまちでそれでもお喋りはどの女もたのいんでいるし笑い声がたえない。
しかし。と、考える。しかし、この中にいる女性の何割が定期的にセックスをしてるのだろうと。人間の根本となる『性生活』はなぜだか皆あえて口にしない。隠れた秘密。自分自身にしかわからない秘密の情事。
21年もいる男性 (すっかりお腹も出ていて頭の毛もさみしい)とのセックスのどこがいけないのだろう。あたしは窓の外に目を向け梅雨独特の雲のたれこめたグレーの空を見上げる。
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あたしって貪欲なのかな。語尾と頭をあげてユウマくんに問いかける。ユウマくんは出張性感ホストだ。
「どんよく」
ユウマくんはどんよくというのを貪欲と知るに約3分くらいかかった。こういうところがかわいくて気に入っている。32歳の大きくなりすぎてしまった子どものような彼。
「そう、貪欲よ」
たった今まで散々愛撫をされ潮を吹かされシーツがお漏らしをした状態になっているのでソファーに裸で移動していた。華奢だけれど筋肉はしっかりとついている。筋肉に埋まっていた頭をあげた。
「貪欲ねー」
女性は皆貪欲です。リサさんだけではありませんよ。ユウマくんはあたしの頭を撫ぜながらまっすぐした口調でそういった。
「貪欲な人ほど優しいし素直だし内面からも表面からもエロスが滲みでてます」
ふっ、あたしはつい鼻で笑ってしまう。エロス? そうかしら。
「旦那と毎日でもしたいのよ。旦那と21年も一緒にいるのに。で、それって変って指摘されたんだ。友達にね」
たばこに火をつける。最初の一口がうまいのはタバコとビールだと思う。ユウマくんもタバコに火をつけた。煙が細くゆるゆる心もとなく立ち上ってゆく。
「ユウマくんに会った日はね、絶対に旦那とするの。ユウマくんがなにかのスパイスになったみたいに」
そうつづけた。
ユウマくんは首をよこにふってから落ち着き払った声音で
「スパイス。おもしろいですね。あはは。てゆうかセックスは自然の原理ですし、旦那さんとの行為はむしろあって当然だ」と言いきって、あ、わかった風な口ぶりすみません、と、謝った。
いえいえ、という感じであたしはうなずく。ユウマくんはほんとうにかわいいしあたしの中でのスパイスでもありオアシスでもあるみたいだ。週に1度。たった2時間だけれどこの時間があたしにとっての貪欲の根源かもしれない。
「今度友達にユウマくんを紹介してみようかしら」
えっ? なにかいいました?
女友達もほんとうはもっと貪欲になりたいはずだわ。だって死ぬまで女なんだもの。
「いいですよ」
「え? 聞こえてた?」
【女性用風俗小説43】~フウフ・エンまん~
