kaikan小説 48|しゅうと

後悔をしている。

あたしの生活圏内に『しゅうと』が加わってしまったことに。何をしていてもしゅうとのことばかり考えているししゅうとのブログやTwitterやインスタにおよぶそういったことまで1時間おきにチエックをしているのだから。ぶっちゃけとるにならないけれどストカーかもしれない。

「おい! 何ぼーっとしてんだよ。手を動かせよ。手を」

背後からの声におどろきはっと我にかえる。す、すみません、と小声であやまり、急いでキーボードの上で指を踊らせる。時給泥棒じゃんよ、たくっ、と、舌打ちする上司に、いやいやあなたにあたしの恋心なんてわからないのよ、と心の中でみえない舌を出す。仕事にまで影響を及ぼすなんて。あたしは本当にしゅうとに恋をしているのだ。

「すっげー、大人しいんですね。あきこさんって」

真夏の夜気はむわんとして昼間の熱が空気に混じっている。背中に汗粒がツツツーと流れるのがわかる。しかし目の前の愛しい人はほとんどさわやかな笑顔で無邪気な目を向けてくる。

「あ、うん。大人しいかも……。ですね」

すみませんとあやまりうつむく。あ、いやいや大人しいって悪い意味でいったわけではなくて、と、しゅうとはあわてて口をひらく。

「大人しい女性も好きです、って意味です。みなさんの個性ですから」

「はぁ」

個性ねぇ。個性かもだけど緊張して喋れないなんていえない。あたしはどちらかといえばお喋りな方だし女友達によれは『うるさい』方よりらしい。しゅうとはさらっとあたしと手を繋ぎ、どこに行きますか? と質問をする。

あーー! しゅうとの手があたしの手と繋がってるぅー! キャー! ヤダァ! 動揺をみせないよう努めながらぎゅっと手を握り返した。もうこのままどこか連れ去ってほしいの。なんてまるで映画の中のヒロインになっている。

レンタル彼氏——。彼はレンタル彼氏だ。本当の彼氏ではない。月に3回と決めてあっている。会うたびに好きになり会うたびにあたしは映画の中のヒロインになる。自分じゃない自分。大人しいキャラ設定のあたし。嘘だらけの仮面を被っているあたし。

「焼き鳥屋にいきませんか? 僕大好きなんですよ」

歩いていたら飲屋街の赤ちょうちんが目に何個も入ってきた。そういえば緊張と会える喜びですっかり空腹を忘れていた。

「はい。あたしも大好きです。焼き鳥。特に軟骨が」

「……、ナ、ナンコツ?」

軟骨が好きなことが何か腑に落ちないのだろうか。あたしはしゅうとの横顔をのぞき込み、しゅうとも一緒にこっちを向いたので向かい合う格好になった。

「ナンコツってなんですか?」

「えええ!」

あたしはまったくおどろいてしまう。つい大げさになってゲラゲラと笑った。

「若い子は軟骨は食べないのかなぁ?」ボソっというと

「あきこさんと僕同い年ですけどね」としゅうとはクスクスと笑う。てゆうかあきこさんって本当は酒豪じゃないんですか? ええ?

いいえ。あたしは首を横に振って認めなかった。しゅうとの前でははかなげでいたいんだもの。

「かわいいな」

しゅうとは突然あたしを引き寄せてキスをした。たくさんの人のいる飲屋街の真ん中で。
こうゆうことをするところが好きなのだ。あたしを大人しくさせる魔法をかける彼が。好きになったキセキ。ホストでもしゅうとはしゅうとだ。

「後悔はしてないわ。やっぱり」

「え?」



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